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青く輝く夏は遠くに過ぎ去り、今朝の初霜で黄金色の秋も駆け足で通り過ぎようとしている。しかし冬を迎えるにはまだ早い、季節の変わり目のほんの短い穏やかな時がそこにあった。バックパックを枕に日溜まりにしばし身をゆだねると、頬に吹く風さえも心地よかった。さっき歩いてきた丘陵はすでに紫色に変わり、短い秋の日ざしはなぜか旅の心を急がせる。
9月の末になるとアスペン(白樺)の林は黄色く色付き、ロッキーの山々に一足飛びに秋がやってくる。短い秋はカメラマンにとってとても忙しい季節だ。紅葉の人気スポットには毎年各地から有名無名のカメラマンが押し寄せ、中にはキャンピングカーで移動する人たちもいる。ボクは紅葉を追って南のグランドティートン国立公園を出発して、動物達に会えるイエローストーンへとドライブするのが好きだ。ジャクソンホールでレンタカーして北上すると左手にグランドティトン山脈があらわれ、その手前のスネークリバーの川沿いは色付いたアスペンの葉がまるで黄色いインクを流したような鮮やかさで出迎えてくれる。このスネークリバー沿いにビーバー池を見つけたのは昨年だった。ワッシュバッカーランディングを下ると小さな川があり朝日に反射したグランドティートンの山頂を撮るのに絶好の場所で、そこの小川をビーバーが塞き止めてダムをつくった。そして満々と水をたたえたビーバーの池は朝日に輝くティトン山頂を鏡みたいに写して一躍カメラマンの人気スポットにしていた。
10月になるとイエローストーンに初霜がおり、2〜3日ごとに寒暖を繰り返しながら季節は駆け足で変わって行く。そして初霜を待っていたかのように夏の間山の中にいたエルクの群れも梺に下りてくる。ブルエルク(オスシカ)にとってこの短い秋はもっとも忙しい季節だ。それぞれがメスの群れを引き連れてハーレムをつくり行動する。オス1頭に3〜4頭から多いのになると20頭ものメスを連れているのもいる。もちろん多くの群れを引き連れているオスはそれだけ強い証拠だ。このメスを横取りしようと若いオスがいつも脇からちょっかいを出し、そのたびに角を立てての戦いが始まる。ハーレムの王にとって一番大切なことは自分の種族の保存だ。そのために彼等は可能なかぎり交尾して種族を増やさなければならない。ブルエルク達はこの時期、忙しくて食べることもままならない。ぜい肉がそれ、ひときわ逞しい野性のその姿は朝日に輝き強く美しかった。
遅い秋の谷間には冷えた空気を震わせて、そんなオスたちの存在を主張するかん高い嘶き(いななき)が遠く近くこだましていた。ラマー谷までくるとオオカミたちの遠吠えがきこえてくる。運がよければ遠くにその姿も見ることができる。一度絶滅したイエローストーンのオオカミ達は1995年にカナダから14匹が連れてこられてから今年は120匹まで増えた。そして14のウオルフパック(狼集団)を形成し、イエローストーン北部の谷にそれぞれ自分達のテリトリーをつくり狩りをする。彼等のの主食はほとんどがエルクだ。冬を間近にエルクが一番強く美しくなるこの季節は、しかしオオカミたちには逆に試練の時だ。雪の中では足を取られて動きのおそいエルクもこの時期は早く、凶暴で捕まらない。この谷が雪に埋もれる冬を誰よりも心待ちにしているのはここではオオカミたちなのである。
ここの旅の終わりは公園に湧き出る天然の露天風呂で締めくくるのがいい。マンモスホットスプリングスの下手の川には豊富な温泉が湧いていて、車をとめて川べりを歩くと立ち上がる蒸気と温泉の硫黄のにおいが疲れた心にホットした安らぎを与えてくれる。近くの岩陰で汚れた衣類を脱ぎ、温泉につかると気分はもう天国だ。ここの露天風呂は川原の石を積み重ねてせき止めただけの本当に素朴なものだから、熱い温泉と冷たい川の水が混じり合う適当な暖かさの場所を探して浸らなければならない、それでも天然の温泉の温もりは何ものにも変えがたい。昼過ぎには近くのキャンプ場のキャンパーたちが三々五々露天風呂に集まり、自慢の旅談議に花が咲く。イエローストーンのつかの間の秋日和。
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