> エッセイメニュー

私のアメリカを探して 7

「島の王様気分でキャンピング」
チャネルアイランド国立公園
Channel Islands National Park, CA


びっしりと島中を埋め尽くしたアイスプラントの花

 チャネルアイランドは、ロサンゼルスとサンフランシスコ間のサンタバーバラ沖に浮かぶ、大小4つの島からなる国立公園だ。ここは宿泊施設も水も食料もない離れ島で、島に滞在するにはキャンプするしかないが、ベンチュラ(Ventura)から日帰りのボートが毎日出ているので気軽に行くこともできる。
 しかし、島のよさを満喫するにはキャンプが一番だ。キャンプはいくつになっても楽しい。出かける前のウキウキした気分は、小学生の頃の遠足に出かける時のようだ。

イルカの歓迎

 ロサンゼルスに着くとまずダウンタウンに寄って、日本のスーパーマーケットで食料を買い込んだ。
 キャンプで一番簡単で美味しく作れるのはカレーライスだ。最近は温めるだけのパックに入った御飯もあるが、なんといっても美味しい御飯は鍋で炊くにかぎる。嬉しいことに、ボクの故郷鹿児島特産のかつお節味のタクアンも売っていた。しょうゆも買って、燃料の小さなプロパンガスのボンベを近くのアウトドアの店で手に入れると、大きなバックは満杯。

 4つの島にはそれぞれキャンプ場があるが、本土から一番近いアナケーパアイランドが最もポピュラーだ。ここへは「アイランドパッカーズ」のボートが毎日出港していて、所要時間は約1時間半。この辺の海は冷たい潮流が流れ、気温が上がる春先は毎日濃い霧に覆われる。
 そんなミルク色の霧の海をボートは縫うように進む。
 船に揺られながら気持ちよくうたた寝を楽しんでいると、小学生の一団が急にざわめき出した。何十頭ものイルカの群れがボートに平行して泳いでいるのだ。群れはボートの下をかいくぐり、大きくジャンプし、はしゃぎ回っている。


鯨の歓迎

 すると今度は近くで、イルカに代わって大きな鯨のブローイング(潮吹き)が始まった。2頭のザトウ鯨がゆっくりと水面に浮上してきた。真っ黒い潜水艦みたいな胴体からプシューッと潮を吹き、尾ひれが反転して今度は水中に没して行く。思いもかけぬ鯨とイルカの歓迎を受けながら、ボートはアナケーパアイランドのシンボル、アーチロックに到着した。

 船着き場から切り立った崖の階段を上るのがここでの初仕事だ。階段は154段。カメラ機材と大きなキャンプ用具を2キロ離れたキャンプ地まで運ぶと、日頃の運動不足がたたってくたくたになった。
 島はちょうど海鳥たちの産卵の時期にあたっていて、卵を抱いた海島が足の踏み場もないくらいあちこちを占拠している。彼らは異常を知ると、けたたましい鳴き声で仲間同士で連絡し合い、侵入者のボクを威嚇した。特にヒナが孵った親鳥は始末が悪い。一羽が騒ぎ出すとそのあたり中が大騒ぎとなり、上空から鋭いくちばしで攻撃してくる。どうにかこうにか鳥たちの攻撃を避けテントを張ると、やっと一息つくことができた。



キャンプ場にテントを張り一安心

 小さな島には灯台と、パークレンジャーの住む家が一軒あるだけ。幸運にも、キャンプしている人は他に誰もいなかった。島は春の花の盛りで、アイスプラントが絨毯を敷き詰めたようにびっしり島中を覆い、真っ赤な花を咲かせていた。
 その花畑の中に首だけ出したウエスタンガル(カモメ)が卵を暖めている。ブラウンペリカンは編隊を組み、音もなく頭上を通り過ぎて行く。
 周りには誰もいなかった。この小さな島がまるで自分のものになったみたいに思えてきて、急に元気が出てきた。大声を出しても、変な格好で跳びはねても、ただ鳥が見ているだけだ。ボクはキャンプ地の周りを歩いて、眺めのいい場所に来ると勝手に名前を付けた。ひとり、この島の王様の気分だった。


ペリカンの編隊飛行

 夕食の時間。水を節約しながら食事の準備に取りかかる。一日で一番楽しい時間だ。ふっくらと美味しい御飯が炊き上がった。おかずはパックのカレーとタクアンだけだが、それでも美味しかった。
 ここでは時間はたっぷりとある。ボクは自分の領土?を散歩することにした。キャンプ地から東側のトレイルは花畑の密集地で、すぐに『美ヶ原』と命名しようと思ったが、しかし『戦場ヶ原』に変更した。なぜならこの辺には鳥たちの巣が一番多く、ここを通ろうとすると、まるでヒッチコック映画みたいに何百羽が群れをなして襲ってくるからだ。
 ボクは頭上で棒切れを振り回しながら鳥たちを撃退したが、しかし魚臭い糞の爆撃には閉口した。『戦場ヶ原』をうまく抜けると、切り立った断崖になり、岩場にはカリフォルニアライオン(アシカ)が重なって昼寝をしていた。


びっしりと島中を埋め尽くしたアイスプラントの花
インスピションポイントからの眺め

 灯台の裏手の急斜面にはペリカンたちの集合地があった。ここから風に乗り離陸し、そしてまた着陸して羽を休めていた。
 島の西の端は『インスピレーションポイント』と呼ばれる一番眺めのよい高台だが、ボクはすぐに『安らぎの丘』と命名した。ここからは夕日がとなりの島を赤く染めて沈んで行くのが見えた。そして遠く鯨が潮を吹いていた。心休まる風景だった。
 夕日が沈むとまた霧になった。テントに潜り込むと、星の代わりにサンタバーバラの町の明かりが優しくまたたいていた。ラジオの短波放送をつけてNHKの放送を聞いた。静かで贅沢な時間がゆっくりと過ぎていった。


『チャネルアイランド国立公園の楽しみ方』

■行き方:ロサンゼルスからUS 101でベンチュラまで行く。ここからアイランドパッカーズの運行するボートが出ている。キャンプする時はここでキャンプ場の予約と帰りのボートの予約も行う。ボートツアーは、島に降りないで島めぐリのツアーと、昼前島に上がり夕方迎えに来たボートで帰る日帰りコースなど、予定に合わせてアイランドパッカーズで確認する。週末は込むので早めの予約が必要。島には水がないので、水、食料、暖かい衣料は忘れずに。

Channel Islands National Park
1901 Spinnaker Drive, Ventura, CA 93001
TEL: 805-658-5730



English Version

> エッセイメニュー