|
> エッセイメニュー 「オーロラと北海の小さな命」
氷の湖に一人寝転がり、オーロラが出るのを待った。時々ピシーッと氷の割れる音が、ずーっと下の深い所から響いてくる。エゾ松の高い枝が月明かりに影をつくり、満月に近い大きな月が上がってきた。気温はとっくに摂氏マイナス25度を下っているだろう。ぴりぴりと頬を突く痛さでわかる。
北国の2、3月はオーロラ観測に一番適している。カナダ最北チェズニーのワプスク国立公園ではオーロラの他に、北海に旅立つ前のポーラーベアー母子を撮影するために世界中からカメラマンがやってくる。 カナダのポーラーベアーは北海が凍り付く11月ごろ、主食のアザラシ漁に出かけるためにハドソン湾に集まってくるが、妊娠しているメスはその時期一緒に旅立たず、少し南の海岸線に巣穴を掘り、子供を産み育てる。そして、高カロリーの母乳で育った子グマは2月末から3月に、母親と一緒にアザラシ漁に旅立つのである。
カメラマンにとって、この母子グマが穴から出てくるほんの数週間が1年に一度の撮影チャンスになるが、あいにくこの時期は天気が一進一退で変化する。ボクが着いた日は運悪く寒波の来襲で、気温はマイナス27度まで下がった。風が強く体感気温はマイナス60度近くにまでなるだろう。 寒波が去って太陽が顔を出すと、氷片が風に飛ばされキラキラとダイヤモンドダストになって輝き、ボクたちはジェイムスとモリスをガイドに、もっと遠くまでスノーモービルで移動した。凍り付いた道なき原野を走るスノーモービルの運転は、激しいスポーツをしているみたいだ。氷の斜面に乗り上げジャンプし、穴に落ち、氷の湖では横滑りに吹っ飛ばされる。身体中がガクガクきしみ、心臓が高鳴った。 午前10時、3時間かかってようやく母親と小さな子グマを見つけた。騒音に驚いて逃げ回る母子がすぐ先にいた。子グマは1頭だけだ。普通2、3頭の子グマが生まれるが、この極寒の環境で全部が無事に育つのは難しい。この母親は、一頭だけ残った子グマに持てる限りの愛情を注いでいた。母子は子グマが乳離れするまでの約3年間、片時も離れず一緒に生活する。子グマの父親は誰かわからない。母子にとって一番の敵はこのオスグマだ。交尾するために、邪魔な子グマを殺して母グマの気を引くのである。
この親子にとって、その日は長い旅の一日目だった。3か月近く過ごした巣穴がすぐそばにある。ボクたちが危害を加えないとわかったのか、母子はこの日旅立ちを諦めて、暖かい日溜まりで一日中過ごした。子グマは母親の愛情を一人占めし、わんぱくぶりを発揮する。
冬場はワッチーロッジしか泊まれる所はないので、事前予約は絶対必要。飛行機でミネアポリスからカナダのWinnipeg(ウィニペグ)へ入り、ローカル航空のCalm AirでChurchill(チャーチル)へ。チャーチルからカナディアンパシフィック鉄道で一つ南の駅Chesnaye(チェズニー)下車。ワッチーロッジから迎えに来る雪上車でロッジまで行く。 | |||||
| > エッセイメニュー |