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私のアメリカを探して 14

「クマさーん part 2」
ビンス シューティー野生動物保護区
Vince Shute Wildlife Sanctuary in Orr, Minnesota


Mother Black Bear Relaxing with Cubs



Mealtime at Shute's cabin

 まだ明け切らない早い夏の朝、うっそうと茂った森の中からクマたちがのそりのそりと起き出して、いつもの原っぱに集まってきた。大きなクマに、小さなクマ、母子グマに、年寄りグマ。その数なんと70頭あまりが、原っぱのすみに建っている小さな小屋から人々が起き出すのを待っている。やがて6時、ボランティアの人たちが餌をバケツに起きてくるとクマたちは一斉に立ち上がり近寄って行く。まるで腹を空かせた家畜たちが飼い主にすり寄って行くようなそんな人間社会のありふれた景色を見るようだが、しかし彼らはあくまで野生のクマたちだ。ここはミネソタ州北部の山の中。ミネアポリスから車で5時間半、ボイジャー国立公園まで約30分のオー(Orr)にあるビンス・シューティー野生動物保護区だ。人間社会においてクマは凶暴で、何かと問題をおかす厄介ものの代名詞の一つだが、しかしこれほど愛されるキャラクターもいない。野生のクマを見てみたい? しかしどこに行けば見られるのだろうか? ビンス・シューティ野生動物保護区にはこんなクマすきの人たちの希望を叶えさせる人間と野生のクマとの友情の世界があった。

Hungry Cub

 ミネソタの”クマ小父さん”ことビンス・シューティーのことを聞いたのは数年前だったが、しかしようやくその地に行けることになった時には、彼は他界した後だった。ビンス・シューティーはこの森の中に一人で住み、ここに生息する80頭あまりのクマたちに餌付けして、現在の野生動物保護区の基を作り上げた人物だ。ビンスはオーのとなり村グリーニ−で生まれ育った生涯木こりの男だった。森の中しか知らない彼は1941年に現在の土地に小さな小屋を建てて一人で移り住んだ。しかしそこはブラックベア−のテリトリーでもあった。小さな小屋はクマたちにたびたび壊された。ビンスはそれに銃で応戦した。ビンスもはじめはクマを怖がるふつうの人間だったのだ。しかしある時ふと気付いた。「クマは決して意地悪な動物ではない。ただ腹が減っているだけなのだ」そして小屋の外に食べ物を置くとクマたちは以後悪さをしなくなった。ビンスはクマたちのために毎日食料の調達を始めた。そしてビンスとクマたちの友情関係が芽生えて行ったのである。


"Burt"

 ある時、銃で撃たれて大怪我をしたクマが迷い込んできた。ビンスはこのクマに毎日チキンヌードルスープとアスピリンを与えて介護した。やがて命をとり止めたクマはブラウニ−と名付けられ、ビンスの一番の親友となった。ビンスが昼寝をする時はこのブラウニ−がいつも腕まくらをしたという。以来ビンスは”クマ小父さん”として地方の人気者になり、評判を聞いたクマ好きの人たちが集まるようになった。しかし木こりで鍛えた頑強なビンスだったが寄る年並には逆らえなくなっていた。80才を過ぎたころからビンスの悩みは自分の事よりクマたちに対して深刻になって行った。「もし私が死んでこのクマたちに餌をやる人間がいなくなったら、彼らは民家の近くにさまよい出てトラブルを起こすようになるだろう」これを知った動物カメラマンのビル・リ−と妻のクレア−が中心になってビンスのクマを救う運動を起こした。そして1994年、非営利団体のThe American Bear Associationが誕生したのである。


Young Cubs

 その年の冬倒れたビンスはオーにある介護施設に入院したが、彼の意志を受け継いだアメリカン・ベア−・アソシエーションは、ビンスの土地を野生動物保護区にし、ボランティアを募ってクマたちの餌付けを継続して行っていった。ボランティアの輪は大きく膨らみ若い動物学者の卵たちも夏休みを利用してインターンとして働くようになった。そしてクマ見学に訪れる人たちも増大して行った。その安全対策に見学用のプラットフォームを作ったり、クマを本当の意味で理解するための運動を広めて行った。クマたちはあくまで野生の生き物で人間との交流には一線を引かねばならない。エプロン姿で朝早くから、日が沈むまで休みなく働くクレア−は、「やることが多すぎてとても人出が足りないのです。ここの人気が出て来るのはいい事ですけど、1日500名の見学者が来ると、パーキングやその他の対応に時間をとられてしまう。ここの運営はすべてが寄付で賄われている。もっと多くのクマ好きの人たちにボランティア−に参加して欲しい」と呼び掛ける。「しかしクマたちの幸せそうな姿を見ていると、こんな疲れも一気に吹き飛んでしまう」とすぐに笑いかえした。


Vince Shute 1914-2000

 ビンス・シュ−ティーは昨年の7月4日、独立記念日に86才で静かに息をひきとった。その日ビンスの古い小屋の周りには、森中のクマたちが集まって来たという。きっとクマたちには、ビンスの死がわかったのだろう。そして火葬にされたビンスの灰は、彼が一番愛した森の中にまかれた。夏の終わりのおそい午後、なにも知らない今年生まれた小熊達が母親のそばで遊んでいた。身体の一番大きいバートと呼ばれる雄グマは、もうすぐ来る冬眠に備え、食べるだけ食べて、膨らんだお腹が地面に付き添うになっている。賑わったクマたちの季節はもうすぐ、秋風とともに終わりをむかえる。



The American Bear Association
P.O.Box 77, Orr, Minnesota 55771
Phone: 218-757-0172
bears@rangenet.com


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