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私のアメリカを探して 17

「島のキャンプはサバイバルゲーム」
バージンアイランド国立公園
Virgin Islands National Park、US Virgin Islands


Photograph by Bob Shinners (Low Key)

「こんなはずじゃなかった」
 真っ白い砂浜に打ち寄せる波、風はそよそよと頬をなでハンモックに揺られながら午後のまどろみに身を任す……思い描いていたイメージがことごとく壊れたのは、シナモンベイのキャンプ地に着いてからだった。

 もちろんシナモンベイは写真で見たとおり真っ白い砂浜が続く美しい海岸だったが、キャンプ場はその中、海岸線沿いに厚く生えそろった低い潅木の中にあった。この潅木がとにかくクセモノだった。中は昼なお薄暗く、海からの風はさえぎられて中まで届かないのだ。とにかく指定された番号のキャンプ地にテントを張ったが、とたんに不安になってきた。
 薮の中はすごい湿度で、テントを張るとぐったり疲れて横になったが、全身から汗が噴き出してきた。その汗が乾かないのである。これが夜になったらどうなるのだろうか。案の定、夕方になると招かれざる客の訪問が始まった。蚊である。汗でぬれた裸の体に待ってましたとばかりにまとわりついてくる。

 そもそも今回の旅はケチケチ旅行で行こうと決めたのがまちがいだった。バージン諸島の表玄関、セント・トーマス島まではデルタ航空のマイレージの無料チケットを使い、キャンプしてホテル代を節約し、食事は自分でクックする……。
 ガイドブックにはどれも世界中の5本の指に入る、美しい白砂の海岸線の写真が載っていた。「こんなところでキャンプしたらどんなに楽しいだろう!」。行く前から期待に胸はずませたのだったが、その夢の島バージンアイランドでのキャンプはそんなに甘くはなかった。


 アメリカ領バージン諸島は、首都シャーロット・アマリーのあるセント・トーマス、それにセント・クロイ、セント・ジョンの3島を中心に、50あまりの小さな無人島からなっている。1493年、コロンバスが2回目の航海で発見してから、デンマークなどの植民地時代を得て、1917年、第一次大戦中にアメリカがデンマークから2500万ドルで買い取った。パナマ運河からのドイツ軍の侵攻を阻止するためだった。
 古くからの貿易港で現在、政治・経済の中心地セント・トーマスには豪華なクルーズ船が寄港し、シャーロット・アマリーのダウンタウンの免税店は世界中の買い物客でいつもごった返している。

 3島の中で一番小さな島がセント・ジョン。人口5000人ほどのこの島には美しい自然以外は何もない。
 1700年代から、デンマークは奴隷を連れてきてサトウキビのプランテーションを始めたが、その朽ちかけたアナバーグ製糖所の跡は、今は観光地として丘の上に残っている。
 セント・ジョンが他と違っているのは、島全体の3分の2が国立公園で、海の中までが海底公園に指定されていることだ。白砂糖みたいなさらさらとした砂浜と同じく、海中は色とりどりの熱帯魚と美しいさんご礁の楽園だった。


 さて夜になると何百、何千というツリーフロッグ(蛙)の合唱が木々の中から始まった。海からの風は夕凪と共にぴたりと止んで、しかも夕方のスコールでテントの中以外はびしょびしょだ。
 ボクはありったけの蚊取り線香に火をつけてその中心部に座り、蚊の襲撃に備えた。まるでどこかの修行僧がお香を焚いて、その中で瞑想でもしているような風情だ。ランタンの明かりは虫たちの標的になるので、高い木の枝に吊り下げてテントから離した。
 「これじゃあ、まるでTVのサバイバルゲームみたいだな」と、一人苦笑いした。
 ほとんど眠れない第一夜は、今度は鳥たちのさえずりで朝になった。潅木のトンネルを抜けるとすぐに白い砂浜に出る。沸かしたばかりのコーヒーを手に誰もいない朝の砂浜を歩くと、ようやく心が落ち着いてきた。

 午前中はわずかに枝のすき間から日が射し込んできた。木の枝に紐を通し、ぬれた衣類を乾かすが、湿度が高いのでほとんど徒労に終わる。焚き木を集めて火を熾し、早めの夕食の準備に取り掛かる。アイスボックスから肉を取り出し、今夜はステーキだ。島の銘酒ラムが体中を走り抜け、肉が焼ける前にいい気分になってしまった。
 その時、岩陰からマングースがのぞいていることに気がつかなかった。ふと目を離した瞬間、皿の上のステーキはあっという間にこのすばしこい小僧にかっさらわれてしまったのだ。しかし肉は食べられなくなったが、なんだか愉快になった。こんな間抜けな自分をずっと注視してスキあらばと狙っていた者が、この茂みの中にいたのだ。これこそ本当のサバイバルゲーム。

 日が暮れると、待ってましたとばかりに蛙の大合唱が始まった。しかし、その合唱が2日目の夜からは少し違って聞こえてきた。打ち寄せる波の音がステレオとなって右から左へと伴奏している。この素晴らしい自然の名演奏にラジオをつける気も起きず、そのまま爆睡したのだった。
 セント・ジョンには2軒のダイブショップがある。クルーズベイの船着場のすぐ近くにある「Low Key」(1-800-835-7718)は、毎朝7時半から2時間のツアーを出していて、ボクは20年ぶりでスキューバダイビングに挑戦した。
 10メートル、20メートルと深みを増すごとに無重力の快感が体中の緊張を解きほぐしてくれる。色とりどりの熱帯魚が目の前で乱舞し、サンゴの群生に我を忘れてニコノスのシャッターを押した。

 4泊のテント生活を終えて、シャーロット・アマリーのホリデー・インにチェックインするや、取るものも取らず熱いシャワーをむさぼり浴びた。カラダ中が虫に刺されて無残な姿になっているが、心の中はなぜか満足感でいっぱいだった。島が暑いのも、蚊や虫がいるのもずーっと昔から同じことなんだ。文明の有難さに慣れきってしまい、それに対応できないふやけた自分がいただけ。なんだか若い頃に帰ったような、ちょっぴりほろ苦いケチケチ旅行だった。


『バージンアイランド国立公園』

■行き方:●アメリカ本土からは各航空会社がセント・トーマス島まで定期便を飛ばしている。
●セント・トーマス島の首都シャーロット・アマリ−のダウンタウンとレッドフックの2か所から、セント・ジョンのクルーズベイまでは、昼間は約1時間ごとにフェリーが出ている。
●セント・ジョンは島の北中央を周回道が走っていて、約3時間(15マイル)で島を一周できる。
●フェリー発着のクルーズベイにはレンタカー(ほとんどが4輪駆動のジープ)やサファリーと呼ばれる乗合タクシーが待機しているので、自分のスケジュールで選ぶ。道路は狭くて急坂なので運転には注意が必要。

■宿泊施設:高級リゾートからB&Bまであるが、シーズン中(12月〜4月)は予約が絶対必要。キャンプ場はシナモンベイとマホベイの2か所にあるが、高温多湿で虫が多いのであまり勧められない。



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