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私のアメリカを探して 22

「クマたちの森でキャンプ」
レイククラーク国立公園
Lake Clark NP, Alaska


Brown Bear


 アラスカには8カ所の国立公園があるが、その中の3カ所はリモート国立公園で公園にアクセス出来る道路も公共の交通機関も無く、自分で小型飛行機かボートをチャーターして湖に下りるか川を遡り目的地に辿り着くしかない大自然の中にある。
 その中の一つレイククラーク国立公園はアラスカ半島の付け根に位置し、ブラウンベアーのサケ漁で有名なカトマイ国立公園の北側、アンカレッジからは約180マイル西南に位置する。

Lake Clark

 ここに一番近い町は、エルスワースだが、ここにはアンカレッジからの定期便がないのでボクはそのまた南のイリヤムナ(Iliamna)まで1日1便出ている定期便で飛んで、ここでボートをチャーターすることにした。
 イリヤムナにはB&Bが1軒とロッジが1軒ある。ハンターと釣り人相手に暮らす小さな村だ。
 このロッジでいつもは釣り客のガイドをしているウィルが彼のボートで2時間かけてレイクラーク国立公園まで運んでくれることになった。

 氷河が解けたクラーク湖の水は下流のイリヤムナ湖に流れて行くが、海から旅したサケは逆にイリヤムナ湖からクラーク湖へと遡上して行く。
 イリヤムナ湖が幅を狭めてクラーク湖と合流する辺には、遡上するサケを数える人たちがキャンプしていた。彼らは手押しのカウンターでシーズン中、億を超えるサケを気の遠くなるような手仕事で数えるらしい。しかしこうした人たちの努力と保護で一時期激減したサケの数は近年また最盛期にまで戻ってきたという。


Brown Bear

 クラーク湖に到着したもののここにはレンジャーステーションもなければ国立公園の看板もない。ボクはウィルに頼んで一番景色のよさそうな場所に降ろしてもらった。「2日したら迎えに来るよ。グッドラック!」と最後に見る人間が帰ってしまうと今度は急に寂しくなった。
 ここら辺はブラウンベアーの生息地で、どこへ行ってもクマにあう。そんな中に一人でやってくるなんて、なんて物好きな男だろうと後悔してももう遅い。
 クマとの遭遇は避けたいが、全米56カ所の国立公園を全踏破するためにはここを避けては通れなかった。

 テントを張り終えてあたりを散歩すると急に胸騒ぎを覚えた。いたるところにクマの足跡と新しい糞を発見したからだ。ウィルはクマは川の支流でサケを捕るのでこの辺は大丈夫だと言ったはずだった。しかしその”大丈夫”は彼がここでキャンプして確認したわけではなかったのだ。
 イリヤムナのロッジにいたプロのハンターは一人でキャンプするというボクに「ガンは持っているのか?」と聞いた。そして釣り人の多くが釣り竿の他に銃を携えていた。
 ボクが持っているのはクマよけのスプレーだけ、クマに襲われたらこんなものは何の役にもならないだろうが、しかしボクはカメラマンだ。銃を持ってまでクマと対峙つもりはなかった。

 最初の仕事は食料をテントから離し木の枝につり下げ、そして河原に落ちている薪集めだった。雑木林から河原に通じる歩きやすいところはクマたちが通るケモノ道になっていてその薮の中にはまだ新しい食い残しのサケが転がっていた。
 クマたちはすでにボクがいることを知っているはずなのに、どこにもその気配を見せなかった。
 早い夕食を済ませると赤々と薪を燃やし夜に備えた。幸いなことにアラスカの夏の夜は短い。陽は10時過ぎに沈み朝の5時にはまた上がる。この短い夜を乗り切れば何とかなる。ボクは焚き火の近くに寝袋を移し起きていようと頑張ったが、疲れた身体に睡魔は容赦なく襲いかかり夜明けを待たずにテントの中に倒れ込んだ。

 次の日は快晴。一人だけの生活は気ままだ。衣類を着たままでで湖に飛び込み洗い、木の枝に吊るして乾かすと心地よい昼寝を楽しんだ。すぐ近くの木の上では白頭鷲がサケを狙っている。北極地リスが挨拶に来た。アラスカの夏は人にも動物たちにも優しかった。
 しかし夜になるとまた心細くなってくる。昨夜よりもっと赤々と薪を燃やし、自分の存在をクマたちにアッピールした。クマは凶暴な動物だが、肉食獣ではないから先に人間を襲うようなことはない(ポーラーベアーは別)、といつか本で読んだことがある。そしてこれまで数回彼らと近距離遭遇した体験からボクはそれを信じた。クマも同様に人間を怖がっているのだ。

 最後の朝、いつものようにスコップを手に離れた薮の中に用達しに行くと、少し様子が違っていた。なんとしっかりと埋めたはずのトイレは掘り起こされなにも残っていなかった。クマが夜のうちにやってきて食べのだ。エスキモー犬が極寒の旅で人間の便を食べるのは聞いたことがあったが、クマのそれは初めてだった。ボクは一瞬グエーッとなったが、しかし次の瞬間一人で笑い転げた。
 テントをたたみウィルが迎えに来るのを待った。緊張した2日間だった。大自然の中で人間のちっぽけさを知らされる旅だった。しかしここのクマたちはボクに一生忘れられない思い出を作ってくれたのである。




Brown Bear

Lake Clark National Park
Headquarters: 4230 University Dr. #311 Anchorage, AK 99508 (907-271-3751)

行方:AnchorageからIliamnaまでPen Air(800-448-4226)が一日一便定期便を飛ばしている。
宿泊:Iliamna Lake Lodge (907-571-1525)、ここでボートか水上飛行機をチャーターする。
*Port Alsworthまでいく時は以下のロッジでAnchorageからのチャーター便込みで予約する。チャーター料金はPen Airとほぼ同じ。
The Farm (907-781-2208)、 Wilder House B&B (907-781-2228)


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