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「北海の王様 ポーラベアー Part 2」
Churchill, Manitoba, Canada

Polar Bear
Polar Bear

 吹雪きになった。凍てついたツンドラの大地を、耳を切るようなうなり声を上げて風が走り抜ける。地表の雪を下から巻き上げ、鉛色に鈍く光る氷りの上を白い渦を作りながら猛烈なスピードで移動する。私達が泊まっている重いバギー車ごと吹っ飛ばしそうな勢いで、吹雪きは毎晩つづいた。この自然の猛威の中で、人間も動物も秘かに息をしながら時の過ぎるのを待つしかない。冷酷な北国の自然はそんなちっぽけな生き者の存在を嘲笑するかのごとく、荒れ狂いそしてやがて去っていった。

Polar Bear

 11月、ハドソン湾が厚い氷に覆い尽くされるとポーラーベアーの季節がやって来る。夏のあいだ海岸で、海草や苔を食べて飢えをしのいできた熊たちは待ち焦がれたアザラシ漁が始まる前のお祝でもするかのように、あるいは離ればなれになっていた旧知の友との再開でも祝うのかのように漁に出かける前のひと時を、このハドソン湾の南にあるチャーチルに集まり、つかの間の仲間との交流を持つのである。
 吹雪きが去った朝、やっと上ってきた弱い太陽の光りに目を覚ました若いオスグマが全身雪まみれで穴から這い出てきた。そして同じくらいの年代のオスを見つけると、お互いに近寄りじゃれ合いが始まった。
 2匹は数日間ずっと一緒で、噛み付き、叩き合い、押し合い、まるで人間の子供がプロレスごっこするように取っ組み合う。しかしこれはあくまでじゃれ合いで決して鋭いカギ爪で傷つけるような事はしない。オスたちたちは長い苦しい夏を乗り切り、また仲間と再開できた喜びと、しかし次の春にはメスを廻り真剣勝負で渡り合わなければならない運命に、自分の力を試しているのである。
 メスは決して取っ組み合いのプロレスをする事はない。彼女たちは、戦いに勝ったオスと春に交尾し、12月から1月に子供を生む。妊娠したメスは、アザラシを追って遠くまで氷の海に出かける事はなく、近くの雪の巣穴に穴ごもりし子供を産み育てるのである。
 生まれる子供は大抵2匹だ。しかし子供を連れた母親にはこんどはオスグマからの悲劇が待ち受けている。子供が乳ばなれするまでの約2年半、母親は子供に付きっきりでオスには見向きもしないために、オスは小さな子供を殺して母親の目を自分たちに向けさせるのである。親子連れにとって一番の恐怖ほこのオスグマとの遭遇であり、母グマが常に鼻をひくひくさせ鋭い臭覚でかぎまわるのは恐いオスの臭いに他ならない。


 このクマたちがどうしてこの季節ハドソン湾の南に集まり、氷の海に旅立つ数週間を一緒に過ごすのか科学的には証明されていないらしいが、ある日突然クマの姿が見えなくまで人間たちのクマ狂想曲は最高に盛り上がる。一度ここに訪れた人たちは誰もが一様に幸せな気分にさせられる。そしてそのうちの何人かは毎年取り憑かれたようにこのクマ見物にやってくる。
 こんな人たちを土地の人たちは『北極の虫に噛みつかれた』と笑うが、しかしこの愛らしいクマたちにいちどでも接したらそれは簡単に納得がいくだろう。
 私もどうやらこの北極の虫に噛みつかれてしまった一人らしい。来年の春先には新しく生まれた小さな小熊が穴から出て来るところを撮りに行きたいと、早くも心は北に飛んでいるのである。


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